ここでは、銀行や信用金庫など金融機関で融資業務に携わっている方向けに、融資業務において避けては通れない不動産担保のひとつ『(根)抵当権設定登記』について、登記の前提となる事前準備や注意点について解説していきます。
目次
(根)抵当権設定登記の事前準備・注意点
(根)抵当権設定登記をするまでに必要な事前準備や注意点についてチェックしましょう。
登記の必要書類にも関係する部分なので、こちらを理解しておくと業務を円滑に進めることができるでしょう。
所有者の住所や氏名に変更はないか?
融対物件の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して所有者の住所や氏名に変更がないかを確認しましょう。
所有者の住所や氏名に変更がある場合、(根)抵当権設定登記の前提として登記名義人表示変更登記が必要です。
Check Point
- 融対物件の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して、表示変更登記の要否を確認する
所有者が個人の場合、住所変更であれば『住民票』や『戸籍の附票』を、氏名変更であれば『戸籍謄本+本籍も記載された住民票』などを用意してもらう必要があります。⇒住所変更登記の添付書類、氏名変更登記の添付書類
「住民票が必要なら印鑑証明書を取るときに言ってくれ!」とお客様に怒られないように事前にチェックしておきましょう。
(根)抵当権の実行を阻害する登記はないか? 例)買戻権・仮登記・差押え
(根)抵当権を設定する理由は、終局的には被担保債権の弁済のためですから、(根)抵当権を実行したときに優先弁済を受けられなくなったり担保価値を大きく下げるような先行登記があっては大問題です。
融対物件の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して先行登記の有無を確認しましょう。
先行登記の有無や先行登記があることによる融資の可否は、最終的には審査部が判断してくれるかもしれませんが、その前に手を打てるか否かが融資担当者の腕の見せ所です。
Check Point
- 融対物件の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して、先行登記の有無を確認する
例1)買戻権
買戻権とは、ある一定の期間(買戻期間)内ならば、登記簿に記載された売買代金と契約費用を支払うことによって不動産を買い戻すことができる権利です。権利部甲区の所有権に附記される形で『買戻特約』として登記されています。
注意すべき点は、買戻特約は現在の所有権に附記登記されているとは限らないこと。過去の所有権にも気を配る必要があります。
この買戻権が行使されると、買戻権の後に登記された権利は消滅してしまい優先弁済が受けられませんので、融資自体を慎重に検討する必要があります。
地方公共団体、独立行政法人、住宅供給公社、大手マンションデベロッパー以外の買戻特約は要注意です。
対して、買戻期間が満了している買戻権が登記簿上残ってしまっている場合があります。
買戻期間が満了しているので、後に登記された(根)抵当権が否定されることはありませんが、そのような登記が残っている状態で競売の際に買受人が付くかどうかは別問題です。
各金融機関の考え方によるところもあると思いますが、可能ならばこの機会に買戻権抹消登記をすべきでしょう。
例2)仮登記
仮登記とは、将来の登記の順位を保全するために行う登記です。
本来、登記の順位を保全したければ初めから本登記を行えば良いところ、手続上の問題から本登記ができなかったり、確定的な権利変動が無いため本登記ができない場合に仮登記という手法が認められています。
例えば、以下のような仮登記があります。
- 所有権移転仮登記
- 所有権移転請求権仮登記(売買予約など)
- 条件付所有権移転仮登記(農地法5条の許可など)
- (根)抵当権設定仮登記 など
所有権仮登記の本登記がされると、仮登記の後に登記された権利は否定されてしまいます。(根)抵当権であれば登記簿上から抹消されて優先弁済を受けることができません。
融資自体を慎重に検討する必要があるでしょう。
例3)差押え
差押えとは、債務者がローンや税金の支払いを滞納している場合に、競売や公売の前提として不動産の処分を制限するために行う手続きです。
差押登記の後は、金融機関に対する債務を滞納していれば競売の手続きにより、税金を滞納していれば公売の手続きにより、当該不動産を換価して債権回収を図ることになります。
差押登記がされていたとしても所有権移転や担保権設定の登記は可能ですが、差押登記の後に登記された権利は競売や公売の際に消滅してしまいます。
(根)抵当権であれば登記簿上から抹消されて優先弁済を受けることができませんので、差押登記がある不動産への融資は慎重にすべきでしょう。
なお、信用情報を確認したり納税証明書を提出してもらうことで他の金融機関や行政庁への滞納の有無を確認することは可能です。というよりは通常業務として行っているものと思います。
問題は、担保提供者が他の債務者の連帯保証人などになっていた場合。
「融資実行日に不動産を差し押さえられた」ということも普通に起こり得ることなので要注意です。(注意しても防ぎようがないかもしれませんが。)
共同担保とすべき不動産を遺漏していないか?
金融機関側で把握している融対物件のほかに、私道やゴミステーションの共有持分を持っていたり、あるいは敷地延長のような形で細長い(または狭小な)土地を所有している場合があります。
そのような不動産は共同担保として(根)抵当権を設定すべきであり、万が一「担保漏れ」など起こそうものなら担保価値に大きな影響を及ぼす恐れがあります。
共同担保とすべき不動産を遺漏しないために、以下のような調査を行いましょう。
Check Point
- 融対物件の登記簿謄本(登記事項証明書)の共同担保目録を確認する
- 融対物件の公図(地図)を取得して、周辺の不動産の所有者を確認する
- 融対物件の権利証(登記識別情報)を所有者に提示してもらう
融対物件の登記簿謄本(登記事項証明書)の共同担保目録を確認する
共同担保目録とは、現在(または過去に)その不動産が共同担保の目的となっている(なっていた)場合に、登記簿謄本(登記事項証明書)に紐付けされる共同担保物件の一覧のことです。
例えば、権利部乙区に抵当権が設定されていたとします。
「権利者その他の事項」の欄の一番最後に『共同担保 目録(ア)第12345号』などの記号番号が書いてある場合、その不動産は別の不動産と共同担保の関係にあります。そして、別の不動産が何かを知るための手段が共同担保目録というわけです。
共同担保目録は、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得する際に請求者側から「共同担保目録を載せろ」と積極的に働きかける必要があります。
請求の仕方は以下の3種類です。
- 現在効力がある(担保権が現存している)共同担保目録のみ
- 抹消済みの共同担保目録も含めた全ての共同担保目録
- 共同担保目録の記号番号を特定する方法
共同担保とすべき不動産の調査においては「2.抹消済みの共同担保目録も含めた全ての共同担保目録」をチェックするのが望ましいです。
融対物件の公図(地図)を取得して、周辺の不動産の所有者を確認する
融対物件の登記簿謄本(登記事項証明書)の共同担保目録を確認する方法のほか、融対物件の公図(地図)を取得して周辺不動産の所有者を確認することで共同担保とすべき不動産を遺漏していないかを調査することができます。
お金が掛かる方法なので、むやみやたらと調査して上席や本部に怒られないようご注意ください。
融対物件の権利証(登記識別情報)を所有者に提示してもらう
バラバラの時期に不動産を取得した場合は別として、大抵の権利証(または登記識別情報)は、同じタイミングで登記した不動産が一綴りの冊子になっていることが多いです。
そこで、融対物件の権利証を所有者に提示してもらうことで共同担保とすべき不動産を発見することができます。
融対物件の権利証は融資が承認されればいずれは準備してもらうものですので、権利証の有無を確認する意味も含めて事前に提示してもらってもいいかもしれません。
(根)抵当権設定登記の必要書類
(根)抵当権設定登記の事前準備や注意点がチェックできたところで、お客様に登記の必要書類をご案内しましょう。
複雑な登記の場合は司法書士に書類の案内をお願いすべきですが、通常の(根)抵当権設定登記ならばご自身でもご案内ができるくらいの知識があった方が何かとスムーズです。
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