ここでは、銀行や信用金庫など金融機関で融資業務に携わっている方向けに、融資業務において避けては通れない不動産担保のひとつ『抵当権設定登記』について、基礎知識と必要書類について解説していきます。
抵当権設定登記をするための事前準備や注意点はこちらからどうぞ。
抵当権とは?
抵当権とは、民法に規定されている担保権のひとつで、所有者(抵当権設定者)の使用収益権を奪うことなく不動産を担保に取ることができるので、融資の場面で広く利用されています。
通常、抵当権は、ある特定の債権(例えば金銭消費貸借契約に基づく貸金債権や保証委託契約に基づく求償債権など)を担保するために設定され、被担保債権と運命を共にします。
被担保債権が弁済されれば抵当権も消滅しますし、債権譲渡されれば抵当権も共に移転します。これを抵当権の附従性・随伴性と言います。
この性質は、抵当権と共に広く利用されている『根抵当権』との比較で重要です。
根抵当権は、ある範囲(例えば銀行取引や信用金庫取引など)に属する債権であれば、あらかじめ取り決めた枠(=極度額)の中でならいくつでも担保することができるのが特徴です。
仮に、複数の債権のうちの1つが弁済されたとしても(元本確定前の)根抵当権であればそのまま存続します。また、債権譲渡があったとしても(元本確定前の)根抵当権は当然には移転しません。
この性質の違いから、取引の形態によって抵当権を設定すべきか根抵当権を設定すべきかの違いが生まれます。
抵当権設定登記の必要書類
抵当権設定登記の必要書類をシチュエーション別に見ていきます。
通常の抵当権設定
抵当権設定者がすでに不動産を所有している状態で抵当権を新規設定する場合の必要書類は以下のとおりです。
必要書類チェックリスト
□ 権利証または登記識別情報
□ 印鑑証明書(登記申請日を基準に3ヶ月以内に発行されたもの)
□ 抵当権設定契約証書
□ 抵当権者の委任状
□ 抵当権設定者の委任状
□ 抵当権設定者の法人登記簿謄本(法人登記事項証明書)
※抵当権設定者が法人の場合のみ
権利証または登記識別情報
法務局の管轄や融対物件を取得した時期によって、権利証を所持しているか登記識別情報を所持しているかが異なります。
印鑑証明書(登記申請日を基準に3ヶ月以内に発行されたもの)
登記申請日を基準に3ヶ月以内に発行されたものが必要です。
印鑑証明書の住所や氏名が登記記録と一致していることを確認しましょう。
抵当権設定契約証書
どの金融機関にも所定の書式があると思いますので、そちらを準備してください。
抵当権者・抵当権設定者の委任状
委任状も多くの場合は各金融機関所定の書式があると思います。無い場合は司法書士に依頼しましょう。
抵当権設定者の法人登記簿謄本(法人登記事項証明書) ※抵当権設定者が法人の場合のみ
抵当権者・抵当権設定者の法人登記簿謄本(法人登記事項証明書)は、厳密には抵当権設定登記の添付書類ではありません。登記申請書に「会社法人等番号」を記載すれば登記官側で登記内容を確認してくれるようになったからです。
しかしながら、司法書士が代表者の本人確認をするための重要な書類であることに変わりはありません。少なくとも抵当権設定者のものくらいは用意してあげると司法書士が喜ぶでしょう。
ちなみに、商号・本店・代表者が記載されていれば、履歴事項全部(一部)証明書、現在事項全部(一部)証明書、代表者事項証明書のいずれでも構いません。
抵当権設定者の住所や氏名に変更がある場合
抵当権設定者の住所や氏名(法人の場合は本店や商号)に変更がある場合、抵当権設定登記の前提として登記名義人表示変更登記が必要です。
登記名義人表示変更登記と抵当権設定登記を行う場合の必要書類は以下のとおりです。
必要書類チェックリスト
□ 権利証または登記識別情報
□ 印鑑証明書(登記申請日を基準に3ヶ月以内に発行されたもの)
□ 抵当権設定契約証書
□ 抵当権者の委任状
□ 抵当権設定者の委任状(抵当権設定登記)
上記に加えて・・・
□ 抵当権設定者の住民票または戸籍の附票
※抵当権設定者が個人で住所の変更がある場合
□ 抵当権設定者の戸籍謄本+住民票(本籍も記載されたもの)または戸籍の附票
※抵当権設定者が個人で氏名の変更がある場合
□ 抵当権設定者の法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
※抵当権設定者が法人で本店または商号の変更がある場合
□ 抵当権設定者の委任状(登記名義人表示変更登記)
抵当権設定者の住民票または戸籍の附票 ※抵当権設定者が個人で住所の変更がある場合
抵当権設定者が個人で住所の変更がある場合、登記記録上の住所まで遡る(移転経緯が確認できる)『住民票または戸籍の附票』を用意してもらう必要があります。⇒住所変更登記の添付書類
抵当権設定者の戸籍謄本+住民票(本籍も記載されたもの)または戸籍の附票 ※抵当権設定者が個人で氏名の変更がある場合
抵当権設定者が個人で氏名の変更がある場合、登記記録上の氏名まで遡る(変更経緯が確認できる)『戸籍謄本』と『住民票(本籍も記載されたもの)または戸籍の附票』を用意してもらう必要があります。⇒氏名変更登記の添付書類
抵当権設定者の法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書) ※抵当権設定者が法人で本店または商号の変更がある場合
抵当権設定者が法人で本店または商号に変更がある場合、法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を用意してもらいましょう。
登記申請書に「会社法人等番号」を記載すれば法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の添付を要しない場合もありますが、変更時期によっては原本を添付する必要があります。
この場合に用意してもらうのは、必ず履歴事項全部証明書にしましょう。現在事項全部(一部)証明書や代表者事項証明書では変更履歴が記載されません。
抵当権設定者の委任状(登記名義人表示変更登記)
登記名義人表示変更登記の委任状のひな型が無ければ司法書士に作成を依頼しましょう。
※その他の書類についての説明は、上記「通常の抵当権設定」をご覧ください。
所有権移転登記・所有権保存登記と同時に行う抵当権設定
不動産の購入や新築に際して、ほとんどの方は金融機関から融資を受けます。そのような場合、所有権移転登記や所有権保存登記と抵当権設定登記は同時に行うのが一般的です。
所有権移転登記や所有権保存登記と抵当権設定登記を同時に行う場合の必要書類は以下のとおりです。
必要書類チェックリスト
□ 抵当権設定契約証書
□ 抵当権者の委任状
□ 抵当権設定者の委任状
□ 印鑑証明書(登記申請日を基準に3ヶ月以内に発行されたもの)
上記に加えて・・・
□ 抵当権設定者の住民票
※抵当権設定者が個人の場合
□ 抵当権設定者の法人登記簿謄本(法人登記事項証明書)
※抵当権設定者が法人の場合
抵当権設定者の住民票 ※抵当権設定者が個人の場合
抵当権設定者が個人の場合、所有権移転登記や所有権保存登記の添付書類となる『住民票』を用意してもらいましょう。
※その他の書類についての説明は、上記「通常の抵当権設定」をご覧ください。
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